Antigravity 2.0 に /btw(by the way)が入り、作業の途中でも「ところで」と文脈を差し込めるようになりました。便利です。エージェントが少しずれた方向に進みかけたとき、全部を書き直さずに一言足せば軌道が直ります。
ただ、この手軽さには落とし穴があります。何でもかんでも /btw で足していくと、その場しのぎの補足が積み重なり、エージェントは「結局どのルールが効いているのか」を見失います。文脈は増やせば効くわけではありません。むしろ、置き場所を間違えた文脈は精度を下げます。置き場所を誤ると、この不整合は本番の出力にまで影響し、あとから回避するのが難しくなります。文脈を3つの層に振り分けて、それぞれに正しく置く設計を、ここから組み立てます。
文脈には3つの寿命がある
文脈を「どこに書くか」で迷うのは、寿命の違いを意識していないからです。ずっと守ってほしいルールと、この一回だけの指示と、たった今の軌道修正は、それぞれ寿命が違います。寿命に合った場所に置けば、エージェントは迷いません。
| 層 | 寿命 | 置き場所 | 例 |
| 永続ルール | プロジェクト全体で常に | AGENTS.md / Guideスキル | 「敬体で書く」「テーブルはHTMLで」「本番URLは触らない」 |
| タスク指示 | この作業のあいだ | 最初のプロンプト | 「この記事のトピックはX」「対象はY」 |
| その場の補足 | 今の一手だけ | /btw | 「ところで、その関数名は古い。新しいのはZ」 |
この振り分けの要点は、永続ルールを /btw で毎回言わないことです。毎回言うということは、それは本来永続層にあるべきものだという合図です。
永続層は「常に効く土台」
プロジェクトのどの作業でも守ってほしいことは、AGENTS.md に一度だけ書きます。ここに書いたことは、/btw で言い直さなくても常に効きます。
# AGENTS.md(抜粋)
## 常に守る
- 日本語の本文は敬体(です・ます)で書く
- 表は Markdown ではなく HTML の <table> で書く
- 本番ホスト(app.example.com)には接続しない。検証はステージング限定
- 外部リンクは必ず [表示テキスト](URL) の形式にする(裸URL禁止)
## 出力の作法
- 冒頭に「この記事では」のような定型導入を書かない
- まとめは本文の繰り返しではなく、次の一手を1つだけ書く
永続層が薄いと、同じ注意を毎回 /btw で足すことになります。逆に永続層が厚すぎると、一回きりの事情まで固定化されて、別の作業で邪魔になります。「どの作業でも真か」を基準に、常に真のことだけを置きます。
タスク層は「今回の枠組み」
一つの作業のあいだだけ有効な枠組みは、最初のプロンプトにまとめます。トピック、対象読者、避けたい重複、成果物の形——ここで枠を決めておけば、あとから /btw で補う量が減ります。良い最初のプロンプトは、/btw の回数を目に見えて減らします。
その場の層は「軌道修正の一手」
/btw が本領を発揮するのは、作業の途中で初めて分かった事実を差し込むときです。エージェントが古い関数名を使い始めた、想定と違うファイルを触ろうとしている、そうした「今この瞬間の逸脱」を、全体を書き直さずに一言で正します。
ここで大切なのは、/btw に入れてよいものと、入れてはいけないものを分けることです。
| /btw に向く | /btw に向かない |
| 今気づいた事実の訂正(「その名前は古い」) | 毎回言う恒久ルール(→ AGENTS.md へ) |
| 直前の出力への一点フィードバック | 作業全体の前提(→ 最初のプロンプトへ) |
| 一時的な優先順位の変更(「先にテストを」) | 長い仕様の丸ごと投入(→ 添付やGuideスキルへ) |
/btw に長い仕様を丸ごと貼ると、本筋のプロンプトと補足の境目が曖昧になり、エージェントはどちらを優先すべきか判断できなくなります。その場の層は「短く・今だけ・一点」に保ちます。
昇格のループを回す
運用していると、同じ補足を何度も /btw で言っている自分に気づきます。それは設計を直す合図です。三回言ったら、その補足は永続層かタスク層に昇格させます。昇格させれば、次からは言わなくても効くようになり、/btw は本来の「その場の一手」に戻ります。
昇格の判断は次の三段で行います。
- 同じ補足を三回言ったかを数えます。
- それがどの作業でも真なら AGENTS.md へ、そうでなければ最初のプロンプトのテンプレへ移します。
- 昇格後は
/btw から外し、その場の一手だけに使い道を戻します。
補足を /btw で言う
→ 同じ補足を3回言った?
→ はい: どの作業でも真か?
→ はい: AGENTS.md へ昇格
→ いいえ: 最初のプロンプトのテンプレへ昇格
→ いいえ: そのまま /btw で運用
私自身、複数の個人開発サイトの更新をエージェントに任せていますが、以前は思いついた注意を片っ端から作業中に足していました。結果、同じことを何度も言っているのに精度が上がらないという妙な状態に陥りました。文脈を寿命で仕分け、繰り返す補足を土台へ昇格させるようにしてから、言う回数が減って、かえって狙いどおりに動くようになりました。文脈は量ではなく置き場所だと、遅ればせながら実感しています。私は、同じ補足を三回言ったら昇格させることを一つの目安として推奨します。
次の一歩
まず、直近の作業で自分が /btw に書いた内容を三つ振り返ってみてください。そのうち「どの作業でも真」のものがあれば、それは AGENTS.md に昇格させるべき文脈です。一つ昇格させるだけで、次の作業から /btw の負担がひとつ軽くなります。