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◈ Agents & Manager/2026-06-03上級

やり直せる操作とやり直せない操作を分けて任せる — 可逆性で自律度を決めるエージェント設計

Antigravity のエージェントに本番作業を任せるとき、賢さより先に効いてくるのは「その操作をあとから取り消せるか」です。操作を可逆性で3階層に分け、自動実行・チェックポイント付き実行・人間ゲートへ振り分ける設計を、TypeScript の実装と6アプリ並行運用の実測値つきで整理しました。

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✦ プレミアム記事

6本のアプリを個人で並行運用していると、エージェントに任せたい作業はいくらでも出てきます。依存パッケージの更新、多言語リソースの整合、Remote Config のフラグ調整、AdMob のメディエーション設定の見直し。2014年から手で回してきた作業ほど、自動化したい気持ちが強くなります。

ところが今年の春、ある木曜の深夜に肝が冷えました。Antigravity のエージェントに「広告まわりの設定を整理して」とだけ伝えたところ、エージェントは Remote Config のあるフラグを本番に反映してしまったのです。コード編集なら git で戻せます。けれど本番の Remote Config は、すでに 5,000万DL のうちその時間に起動した端末へ配信が始まっていました。取り消しても、もう新しい値を受け取った端末は元に戻りません。テストは通っていました。問題はテストの外、「取り消せるかどうか」にありました。

このとき気づいたのは、エージェント運用で先に効いてくるのは賢さではなく その操作をあとから取り消せるか だということです。賢いエージェントでも必ず間違えます。間違えたときに git で戻せる操作と、世界に痕跡が残って戻せない操作とでは、任せ方をまったく変えるべきでした。ここでは、操作を可逆性で分類し、自律度を段階的に切り替える設計を実装とともに整理します。

操作を「やり直せるか」で二分する

ソフトウェアの意思決定には、あとから引き返せる「両開きの扉(two-way door)」と、通り抜けたら戻れない「片開きの扉(one-way door)」がある、という考え方があります。これをエージェントの操作にそのまま当てはめると、運用の見通しが一気に良くなります。

両開きの扉にあたる操作は、ファイルの編集、ブランチへのコミット、下書きの生成、ローカルでのビルドなどです。失敗しても git で戻せますし、誰の目にも触れません。こうした操作にいちいち人間の承認を挟むのは、エージェントを雇った意味を消してしまいます。

片開きの扉にあたる操作は、App Store への申請、本番データベースへのマイグレーション、Remote Config の本番反映、課金イベントの発火、外部への通知送信などです。一度実行すると、ユーザーの端末・決済・外部システムに痕跡が残り、コマンド一つでは戻せません。ここを賢さに任せてはいけません。

私が最初に作った仕組みは「重要な操作は承認を挟む」というものでした。けれど「重要」という基準が曖昧で、結局あらゆる操作で確認ダイアログが出て、エージェントはほとんど自律的に動けませんでした。基準を「重要かどうか」ではなく 「取り消せるかどうか」 に置き換えたとき、初めて運用が回り始めました。

可逆性は3階層で捉えると運用しやすい

二分だけでは現場に合いませんでした。両開きと片開きの間に、もう一段が必要だったからです。私は最終的に、操作を次の3階層に分けています。

第1階層は 自動可逆 です。git で戻せる、外部に痕跡が残らない、巻き戻しコストがほぼゼロ。コード編集、ローカルテスト、下書き生成などが該当します。これはエージェントに無条件で任せます。

第2階層は 要チェックポイント です。技術的には戻せるけれど、戻すのに手間がかかる、あるいは戻し忘れると危ない操作です。ステージング環境への反映、スキーマ変更を伴わないデータ更新、ブランチ間のマージなどが該当します。実行する前に必ず巻き戻し点(スナップショット)を残し、戻せる状態を保証してから自動実行します。

第3階層は 不可逆 です。実行したら世界に痕跡が残り、人間にしか責任を持てない操作です。ストア申請、本番マイグレーション、課金・通知の発火がここに入ります。この階層だけは、エージェントが「実行直前」で止まり、人間が中身を確認してから通します。

この3階層の良いところは、判断の重さが操作の取り消しやすさに正確に比例することです。安全な操作は速く、危険な操作だけ慎重に。賢さの議論を持ち込まずに、機械的に振り分けられます。

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この記事で得られること
✦エージェントの全操作を「自動可逆 / 要チェックポイント / 不可逆」の3階層に分類し、可逆なものは自動実行・不可逆なものだけ人間ゲートへ振り分けるルーターを TypeScript でそのまま組める
✦6本のアプリを並行運用する中で実際に起きた『取り消せない設定をエージェントが本番反映した』事故を題材に、操作の可逆性を判定する分類器と、巻き戻し点を残すチェックポイント層の実装が分かる
✦全エージェント操作の約70%が可逆・人間ゲートが必要なのは8%という実測の内訳から、承認待ちで運用を重くせず事故だけを止める閾値設計を、1日あたりの停止回数まで具体的な数値で決められるようになる
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