2014年から個人でアプリを作り続けてきて、ここ数年は自宅の Mac mini と持ち歩き用の MacBook Air を行き来する暮らしになりました。アプリのリリース作業は自宅、外出先のカフェでは記事の下書きや軽い修正、移動中はベンチに座って iPhone でログを眺める。生活と制作が混ざり合うほど、編集環境の差が小さなストレスとして積み上がってきます。
Antigravity に Settings Sync が入ってから、その差を埋める方法をずっと探していました。3週間使ってみて、最初に期待していた「同じ環境がそのまま2台で動く」というのは半分くらい正しく、半分は違っていました。期待を捨てずに、現実的な落としどころを見つけていく過程を、実際の作業に沿って書いておきます。
2台目の Mac を準備した直接の動機
きっかけは、2026年春に古い iPad Air を売って軽い MacBook Air に替えたことでした。それまで外出先での編集は iPad で済ませることが多かったのですが、Antigravity の Background Agent をきちんと動かそうと思うと、どうしてもフルの macOS 環境が必要になります。アプリ事業の累計ダウンロードが5,000万に届いたあたりから、移動中でも「気になったらすぐ触れる」状態にしておきたい場面が増えていました。
最初の数日は2台の Antigravity をそれぞれ手動で設定していたのですが、片方でカスタムルールを更新すると、もう片方で違う挙動になることに気づきます。同じプロジェクトの同じファイルを開いているのに、片方では補完が出て、もう片方では出ない。これでは集中も削れますし、何より「自分の編集環境」という感覚が薄れてしまいます。
2014年に iOS アプリを作り始めた頃は、Mac は1台で完結していました。それが12年ほど経って、複数のサイトとアプリを抱え、複数のデバイスを跨ぐようになった。Settings Sync が必要になったのは、暮らしの形が変わったからだと思っています。
Settings Sync を入れて最初に手応えがあった範囲
Antigravity の Settings Sync は、内部的には GitHub アカウントを介して設定リポジトリを同期します。最初に有効化したとき、同期される範囲を見て少し驚きました。同期されるのは大きく分けて、エディタの基本設定(フォント、テーマ、タブ幅)、キーボードショートカット、拡張機能のリスト、そしてユーザーが書いた Snippets です。これらは2台目を開いた瞬間に揃ってくれて、最初の30分くらいは「これは便利だ」とそのまま思いました。
特に良かったのは、キーボードショートカットの同期でした。私は標準のショートカットをかなりカスタマイズしていて、Cmd+Shift+L で Background Agent を起動する、Option+E で Edit Selection に入る、といった独自の手癖を作っています。1台目で組み立てた手癖が、2台目でそのまま使えるというのは、想像していたよりずっと体力的に楽でした。
Snippets の同期も助かりました。Swift アプリの MARK: コメント形式、SwiftUI の ViewModifier テンプレート、@_documents/PERSONALIZATION_MAX_GUIDE.md を参照する記事冒頭の挨拶テンプレートなど、12年分の手癖が両方の Mac で同じ場所に来てくれます。これだけで、外出先で書き始めるときの「立ち上げコスト」が体感で半分くらいになりました。
同期されない範囲を3日かけて切り分けた
期待が崩れたのは2日目の午後でした。MacBook Air で Antigravity を開き、自宅で組み立てたカスタムルールを呼び出そうとしたら、見当たらない。慌てて1台目を確認すると、確かにそこにはあります。Settings Sync を有効にしているはずなのに、なぜか同期されていない設定が複数ありました。
3日かけて切り分けた結果、同期されない範囲は以下の3つに集約されました。
ひとつめは、プロジェクト固有の Custom Rules。これは .antigravity/rules.json のようなプロジェクト直下のファイルで定義していて、リポジトリの中に閉じています。なので Git で同期しない限り、当然 Settings Sync の範囲外です。私の場合は4つの Lab サイトの .antigravity/ を Git 管理に切り替えることで解決しました。
ふたつめは、Workspace 固有の設定。Antigravity は VS Code 系列のエディタとして、ワークスペースごとに .code-workspace ファイルの設定が優先されます。これも当然リポジトリかワークスペースファイルに紐づいていて、Settings Sync の範囲外です。
みっつめが少し面倒で、ローカル LLM の接続設定でした。Gemma 4 をローカルで動かしている私は、エンドポイントを http://localhost:11434 に向けています。これは2台の Mac で物理的に違う環境なので、同期してしまうとむしろ困ります。Settings Sync がここを除外してくれているのは正しい設計でしたが、最初は「同期されていない」と勘違いして30分くらい時間を溶かしました。
整理してみると、Settings Sync は「私という個人の手癖」を同期するためのものであって、「プロジェクトの設計」や「マシン固有の事情」は同期しない、という線引きになっています。当たり前と言えば当たり前なのですが、3日かけて自分の頭で線を引き直したからこそ、信頼して使える感覚が育ちました。
いま落ち着いている同期設計
3週間使った今、以下のような設計に落ち着いています。
Settings Sync に任せる範囲
- エディタの基本設定(フォント
JetBrains Mono、テーマOne Dark Pro、タブ幅 4) - キーボードショートカット(カスタム18個)
- 拡張機能のリスト(24個、うち4個は両方の Mac で自動インストールされる)
- ユーザー Snippets(Swift/TypeScript/MDX 用、合計62個)
Git 管理に移した範囲
- 各リポジトリの
.antigravity/rules.json(Lab 4サイト + アプリ4本) - プロジェクトごとの
.code-workspaceファイル - Custom Commands のうち、特定プロジェクトに紐づくもの
2台で個別に維持する範囲
- ローカル LLM の接続設定
- Git の commit author 情報(自宅と外出先で違うメールアドレスを使い分けている)
- ターミナル統合の起動オプション(自宅は zsh、外出先はパフォーマンス優先で fish)
この3層構造に整理してから、2台目を開いたときの「あれ、これどこにあるんだっけ」が劇的に減りました。1ヶ月前は MacBook Air でセットアップに15分かかっていたのが、いまは Antigravity を開いて1分以内に作業に入れます。
ぶつかった具体的な壁とどう抜けたか
順調な話だけ書くと参考になりにくいので、3週間でぶつかった壁を3つ書いておきます。
Snippets の競合。1台目で swiftview という Snippet を更新したのに、2台目で古いまま残っていた、というケースがありました。原因は、両方の Mac で同じ Snippet を直前に少し違う形で編集していたためです。Antigravity は競合を検出するとダイアログを出してくれるのですが、ダイアログを閉じてしまうと「片方を選んでもう片方を捨てる」という選択肢が見えにくくなります。いまは Snippets を更新するときは、まず1台目で完了してから2台目で Cmd+Shift+P → Settings Sync: Pull を明示的に走らせる、という習慣にしました。
拡張機能の自動インストール待ち。新しい拡張機能を1台目で入れて、すぐに2台目を開いてもしばらく反映されません。バックグラウンドでダウンロードが走るのですが、起動直後に作業を始めるとその拡張がまだ動いていない、ということが何度かありました。いまは2台目を開いたら、まずコーヒーを淹れる時間(5分くらい)置いてから本格的な作業に入るようにしています。
Git author メールの上書き。これは少し油断していたのですが、グローバル設定の Git author info が Settings Sync 経由で上書きされそうになりました。私は自宅用と外出先用でメールアドレスを意図的に分けているので、これが同期されてしまうと commit 履歴が混ざります。回避策として、Antigravity の Git author 設定をワークスペース単位で上書きする形に変えました。Settings Sync はあくまでエディタの設定を同期するものであって、Git の identity まで踏み込まない方が安全だと感じます。
いま思っている Settings Sync との付き合い方
宮大工だった両方の祖父が、それぞれ違う家で同じような道具を整えていた話を、子供の頃に聞いたことがあります。同じ道具を使う者として「手が動く範囲」は揃えながら、家ごとの事情は家で見る、という感覚でした。3週間 Settings Sync を使ってみて、何となくそれに近い線引きを自分の中に持つようになりました。
Antigravity の Settings Sync は、私という個人の手癖を同期するための道具です。プロジェクトの設計はリポジトリで、マシン固有の事情はそのマシンで持つ。この3層の線引きが頭の中に通ってから、2台の Mac を行き来する時間が、ようやく「不便なくらいなら1台に絞ろうか」という感覚から「2台あって良かった」に変わりました。
これから2台目を準備する個人開発の方には、有効化したその日から完璧を求めず、最初の1週間は「同期されない範囲」を意識的に探してみることを勧めたいです。線が見えてくると、Settings Sync は驚くほど静かに、毎日の編集を支えてくれます。
同じように複数の Mac を跨いで作業されている方の参考になれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。