サイトの更新作業を終えた夜、その日にエージェントと交わしたやり取りを手元へ残しておこうとして、会話の「…」から Export を選びました。ダイアログは出ませんでした。保存先を聞かれることもなく、失敗したという表示もなく、ただ何も起きません。三度押して、四度目にようやく、これは私の操作の問題ではないのかもしれない、と思い至りました。
同じ症状は公式フォーラムにも立っています。Export chat is not working(Google AI Developers Forum) では、ダイアログも出ず、ファイルも作られず、エラーも出ないという報告が続いています。2026 年 9 月下旬の時点で、このスレッドはまだ未解決のままです。
最初にお伝えしたいのは、ボタンが直るのを待っているあいだも、記録は残せるということです。ここでは私が実際に使い分けている三つの経路を、非エンジニアの方にも辿れる形で書き残します。
押せていないのか、押しても動いていないのか
原因の特定より先に、症状の切り分けだけ済ませておきます。三十秒で終わります。
- 別の会話でも同じかを試します。長い会話だけで起きるなら、量の問題である可能性が残ります
- 保存先の候補フォルダ(ダウンロードフォルダ、直前に開いていたプロジェクトの直下)を、押した直後に開いて確認します。無言で書き出されていることが稀にあります
- アプリを一度終了して開き直し、同じ会話でもう一度押します
三つとも空振りしたら、その日はボタンを当てにしない、と決めてしまってかまいません。直る見込みを読もうとするより、そのほうが早いのかもしれません。私は最初のうち、押し方が悪いのではないかと設定画面を往復して三十分を使いました。結果は芳しくありませんでした。復旧を待つ判断と、記録を残す判断は、別々に下せます。
経路① 会話ファイルの居場所を、更新時刻で当てる
記事や解説で見かけたパスをそのまま開いて、空振りした経験があります。Antigravity は 2.0 デスクトップ・IDE・CLI の三つが並行して更新されており、会話の保存先はバージョンによって動きます。ですので、場所を覚えるのではなく、更新された時刻で当てます。
手順は二つだけです。まず、短い一言をエージェントに送ります。次に、その直後に設定ディレクトリを時刻で絞ります。
# 会話を1つ送った直後に実行します。
# 「直近5分で更新された、1KB より大きいファイル」だけを見ます
find ~/.gemini -type f -mmin -5 -size +1k 2>/dev/null | head -20
# 何も出ないときは、ホーム直下の隠しフォルダ全体へ広げます
find ~ -maxdepth 4 -type d -name '.*antigravity*' -o -maxdepth 4 -type d -name '.gemini' 2>/dev/nullWindows の場合は PowerShell で同じことができます。
# 直近5分で更新されたファイルを、新しい順に20件だけ表示します
Get-ChildItem "$env:USERPROFILE\.gemini" -Recurse -File -ErrorAction SilentlyContinue |
Where-Object { $_.LastWriteTime -gt (Get-Date).AddMinutes(-5) } |
Sort-Object LastWriteTime -Descending |
Select-Object -First 20 FullName, Lengthいま送った一言が入っているファイルが、この一覧のどこかにあります。拡張子が .json や .jsonl であればテキストエディタでそのまま読めます。.db や .sqlite であれば、開く前に必ずコピーを取ってください。アプリが書き込んでいる最中のファイルを直接開くと、読めないだけでなく、履歴そのものを壊す側に回ってしまいます。
# 開くのは必ずコピーの方です(末尾の -wal / -shm も一緒に持っていきます)
mkdir -p ~/chat-backup/2026-09-22
cp <見つかったファイル>* ~/chat-backup/2026-09-22/この経路の利点は、アプリの機能が止まっていても関係なく取り出せることです。欠点は、中身が人間向けに整えられていないことでした。私は会話の全文を求めているつもりでおりましたが、読み返したいのはごく一部だと気づいたのは、実際に開いてみたあとでした。その気づきが、経路③につながります。
経路② 有志のエクスポータに渡す前に、決めておくこと
公式のボタンが止まっているあいだ、antigravity-chat-exporter のような有志のツールが動いています。手軽ですし、読みやすい形で書き出してくれます。
ただし、会話には自分で思っている以上のものが混ざります。API キーの文字列、受託先のドメイン、まだ公開していないアプリの内部名、ローカルのフォルダ構成。私は個人開発でアプリのストア用テキストを扱う会話と、受託サイトの作業をする会話を、同じエディタの中で行き来しております。
ですので、渡す前に二つだけ決めています。
- どの会話を通すか。自分のプロダクトの会話は通し、他者の情報が入る会話は通さない、という線引きです
- どこで動くか。手元だけで完結するツールか、どこかへ送信する作りかを、実行する前に確かめます
道具を疑うという意味ではありません。会話は思考の記録であると同時に、預かりものの一覧でもある——その二重性を忘れないための手順です。
経路③ 残すものを、会話の途中で決める
三つのうち、いちばん使っているのはこれです。
公式のエクスポートには、動いていたとしても限界があります。書き出されるのは表に出た発言までで、エージェントが途中でどう考えたかは落ちてしまいます。つまり全文保存は、思っているほど「全部」ではありません。
そこで私は、作業の終わりにエージェント自身へ、その場で要約を書かせています。プロンプトは毎回これだけです。
このセッションで実際に変更したファイル、採用しなかった案とその理由、
次に再開するときの最初の一手。この3つの見出しだけの箇条書きで、
docs/worklog/2026-09-22.md に追記してください。所感と前置きは不要です。見出しを三つに固定しているのには理由があります。自由に要約させると、うまくいったことばかりが残ります。採用しなかった案を明示的に求めておくと、翌週の自分が同じ袋小路へ入る手前で止まれるのです。
私が運営しているサイト群の日次更新でも、処理が無音のまま終わることを禁じ、成功・上限・失敗のいずれかを必ずファイルへ残す形にしています。会話の記録も同じで、残すかどうかをボタンの機嫌に委ねないという一点だけを守っています。
三つの経路の使い分け
| 経路 | 向いている場面 | 手間 | 弱点 |
|---|---|---|---|
| ① 更新時刻で当てて取り出す | 過去の会話を今すぐ救い出したいとき | 中 | 中身が人間向けに整っていない |
| ② 有志のエクスポータ | 読みやすい形で丸ごと欲しいとき | 小 | 渡す内容の判断が自分に残る |
| ③ 会話の終わりに要約を書かせる | 毎日続けたいとき | 小 | 過去の会話には遡れない |
①は救出、②は移送、③は習慣です。三つは競合しません。エクスポートのボタンが直った日でも、③はそのまま残ります。
なお、公式の使い方の全体像は Antigravity のドキュメント で確認できます。ボタンの挙動はバージョンで変わりますので、直ったかどうかは月に一度、押して確かめる程度で十分でした。
次にやること
今日の作業の終わりに、経路③を一度だけ試していただければと思います。三つの見出しを指定して、リポジトリの中の日付ファイルへ追記させます。それだけです。明日の朝、その五行を読み返したときに続ける価値があるかどうかが分かります。
私も、エクスポートが無反応だったあの夜から、この一手だけは欠かさないようにしております。お読みいただきありがとうございました。