2026 年 5 月、私は同じ作業を Antigravity 2.0 と OpenAI の Codex の両方で並行してこなしてみました。両ツールとも先行記事はたくさんありますが、個人開発の現場で「いつどっちを選ぶか」を実測ベースで決めたかったのです。Mac mini M5 1 台での運用で、4 タイトルの壁紙アプリ更新作業に当てたところ、思っていたほど単純な優劣にはなりませんでした。判断材料を共有します。
廣川政樹と申します。アーティスト・個人開発者として 2014 年から壁紙アプリ群(累計 5,000 万ダウンロード超)の運営と、4 つの技術ブログ(Claude Lab / Gemini Lab / Antigravity Lab / Rork Lab)の自動運用をしています。今回は壁紙アプリの iOS 側 StoreKit 2 移行という横断作業を題材に、両ツールを使い分けた所感をまとめます。
同じ作業を 2 系統で回した理由
5 月の頭、SKPaymentQueue 痕跡の grep と差分適用を 4 リポ横断でやる必要があり、これは AI コーディング支援が一番効く工程です。普段は Antigravity 2.0 に寄せていますが、Codex の最近のアップデートで「ターミナル統合の操作感」が変わったと聞き、同じ作業を両方で並行で動かして直接比較することにしました。
ルールはシンプルです。
- 同じプロンプトを両方に投げる(言葉遣いも揃える)
- どちらかが詰まったらもう一方を当てる
- 双方の成功/失敗・所要時間を都度メモする
3 日かけて 47 件のタスクを処理し、その記録を元に判断軸を整理しました。
個人開発で見えた選び分けライン
結論を先に書くと、私の現場では次のような分かれ方になりました。
- 4 リポ横断の grep と一括書き換え: Antigravity 2.0 が有利
- 1 ファイル内の細かい挙動修正: Codex が有利
- 公式ドキュメント参照を伴う調査: Antigravity 2.0 が有利
- テストコードの初稿生成: ほぼ互角
- エディタ上でその場で動かす対話: Codex が有利
数字で言うと、複数リポ横断のタスクは Antigravity 2.0 のほうが平均で約 25% 短い時間で終わり、エディタ内対話の細かいタスクは Codex のほうが約 18% 短い時間で終わりました。総合では Antigravity 2.0 が 6 割、Codex が 4 割という体感です。
コスト反転ライン
5 月時点で私が払った合計コストを書くと、Antigravity 2.0 が約 12,500 円、Codex が約 9,800 円でした。Codex のほうが安く済んでいますが、これは「ターミナル統合の対話で完結する細かいタスク」が多かった分の差で、Antigravity 2.0 でないとできないタスクは別途必要だった、と捉えています。
個人開発の経済性で言うと、月の AI コーディング支援コストが 20,000 円を超えるあたりから「AdMob 収益のうちのどれくらいか」を意識し始めるラインです。私の壁紙アプリ群は月に AdMob 由来で 6 桁の収益があるので 20,000 円は許容範囲ですが、月収 3 万円規模の方なら 1 ツールに絞るほうが現実的だと思います。
並行運用の運用反転ポイント
並行運用は最初の 2 日は楽しいです。同じ作業の挙動差が直接見えるので、各ツールの強み弱みが立体的に掴めます。ところが、3 日目以降は明らかにオーバーヘッドが効いてきます。
私が観測した反転ポイントは次の通りです。
- 2 日目までは並行運用が学習効率を最大化する
- 3 日目以降は「どちらに渡すか」の判断コストが純コストとして効く
- 5 日目で「両方を持っているが片方しか使わない日」が増え始める
私の経験では、4 日目以降は「Antigravity 2.0 を default、Codex を補助」の片寄せ運用に戻すのが、結果的に集中力を消耗させません。
サンプル: 同じプロンプトでの挙動差
具体例として、私が両方に投げた中で最も差が出たプロンプトを書いておきます。
"4 リポすべてで SKPaymentQueue.default() を含む箇所を列挙し、それぞれに対して
Transaction.updates 側への移行案を 1 ファイルずつ提示してください。
ただし、UI コードと最初の起動シーケンス(@main)は触らないこと。"
- Antigravity 2.0 の応答: 17 箇所を列挙、各箇所にコンテキストを 5 行ずつ付けて表示。所要 4 分。
- Codex の応答: 1 リポ内 8 箇所を列挙して止まる。残り 3 リポは別プロンプトを要求。所要 7 分(再プロンプト込み)。
これは Antigravity 2.0 の「複数ファイル/リポ横断の前提が薄く済む」設計が効いている例です。一方、別のプロンプトで「Entitlement.refresh の isPro の評価順序を変えて、サブスクと AdMob リワードの両方を必ず評価するように書き直して」と頼んだとき、Codex のほうが 1 ファイル内に閉じた書き換えとして 1 回で通り、Antigravity は確認ステップが 1 つ余計に挟まりました。
並行運用 3 日目に起きた「思考停止」の症状
3 日目の午後、私は両ツールに同じプロンプトを送るルーチンに完全に慣れてしまい、結果を比較する判断力が落ちていることに気付きました。これは並行運用の見落とされがちなコストです。具体的には、Antigravity 2.0 の出力を読んだ後に Codex の出力を読むと、最初の方が頭に残っていてバイアスがかかります。さらに、両方の出力をマージしようとして余計な時間を使う、という負の連鎖が起きました。
私は 3 日目の途中で、ルールを「同じプロンプトを両方に送るが、まず Antigravity 2.0 の応答だけ読んで判断します。Codex の応答は、Antigravity 2.0 の応答に明らかな問題があった時だけ参照する」に切り替えました。これで判断時間が体感半分になり、結果の品質も上がりました。
並行運用を語るときに「両方を見比べれば最良が選べる」という前提を疑うべきだ、というのが私の 5 月の発見です。実際は、見比べることで判断コストが純増するケースが多く、片寄せして時々参照するほうが現場では効率的でした。
4 タイトル並行作業で見えたツール固有のクセ
壁紙アプリの 4 タイトル並行作業をしていて気付いたツール固有のクセを 1 つずつ書いておきます。Antigravity 2.0 は「同じ作業を 4 リポで」とお願いすると、最初に作業計画を整理してから各リポで実行する傾向があります。これは初動が遅く見えますが、結局のところミスが少なく済みます。
一方、Codex は「最初のリポで動かしてから 2 番目に移る」というシーケンシャルな進め方を取りやすく、初動が速い分、最初のリポでの判断が後続にも引きずられる場合があります。私の場合、最初のリポで Entitlement.refresh の評価順序を 1 回間違えると、後の 3 リポにも同じ間違いが伝播してしまいました。
このクセを理解しておくと、Antigravity 2.0 にはクセの強い大型タスクを任せ、Codex には独立した小さい修正を投げる、という棲み分けが自然にできます。
個人開発で次に取る一歩
私の現状の運用は「default を Antigravity 2.0 に置いて、ターミナルでその場で動かしたい時だけ Codex に切り替える」シンプルな構成です。5 月の並行運用で見えた挙動差を脳内に持っていれば、切り替えの判断は 5 秒で済みます。
これから両方を試そうとしている方には、いきなり「どちらを選ぶか」と決めるのではなく、3 日間だけ並行で動かして、4 日目から default を 1 つに寄せる進め方を推奨します。3 日あれば自分の作業傾向と各ツールの相性が掴めますし、4 日目以降のオーバーヘッドを引きずらずに済みます。
個人開発の現場では、ツール選定の正解は環境と作業の組み合わせで毎月変わります。5,000 万ダウンロードの壁紙アプリ群を 1 人で見ている立場としては、ツールに振り回されない選び分け基準を 1 つ持っておくことが、長く続ける上でとても大事だと感じています。共に学んでいけたら嬉しいです。