Antigravity と OpenAI Codex CLI のどちらを採用するか、というのは、2026年に入ってからのコーディングエージェント選定の中心的な悩みになりました。ベンチマークの数字を比べる記事は山ほどありますが、私自身が知りたかったのは「実プロジェクトで6ヶ月使い続けると、どちらでどんな問題が出るか」でした。
私は2014年からアプリ事業をやってきた身で、現在は Dolice として個人開発で6サイトのコンテンツ自動投稿パイプライン(Claude Lab・Gemini Lab・Antigravity Lab・Rork Lab・Lacrima・Mystery)を運営しており、その中の一部のリポジトリで Antigravity を、別の一部で Codex CLI を並走させながら半年運用してきました。同じ実装課題に対する両者の挙動・修正コスト・運用月額を、コードベースの規模が近い 4 リポジトリで実測した数値ベースで比較します。
ここでの結論を先に書くと、どちらか1つを選ぶ場面と、両方を併用する場面の判断基準 はかなり明確に分かれます。
比較した4リポジトリと条件
実測の条件を最初に書いておきます。私が並走させたのは次の4リポジトリ。
- Site A: Next.js 16 + Cloudflare Workers(Lab 系サイトの1つ)— TypeScript 4.5万行
- Site B: WordPress テーマ + 自動投稿 Python パイプライン — Python 1.2万行 + PHP 6千行
- Site C: ストレージサーバの .htaccess 群 + 画像最適化スクリプト — Bash/Apache 2千行
- Site D: アプリ事業の API バックエンド(PHP/JSON 配信)— PHP 8千行
期間は2025年12月〜2026年5月の6ヶ月。Site A と C は Antigravity 担当、Site B と D は Codex CLI 担当としつつ、月に1回くらい両者を入れ替えて差分を観測しました。リポジトリ規模・タスク種別・人間が介入する頻度はほぼ同等です。
実測した4つの指標
比較した指標は次の4つ。「どれだけ正確に動いたか」ではなく「運用していて何が起きたか」を見たかったので、ベンチマーク的なメトリクスは意図的に避けました。
- タスク完走率: 「PR を作って」と頼んで、レビュー対象として読める PR が返ってきた割合
- 修正コスト: PR を実際にマージ可能にするまでに必要だった人間の手数(行単位の編集回数)
- トラブル時のリカバリ性: タイムアウトやエラーで止まった時、どれくらい自力で復旧したか
- 月額の運用コスト: API 課金 + サブスク料金の実支払い額
6ヶ月の実測値は次の通りです。
| 指標 | Antigravity | Codex CLI |
|-----------------------|--------------------------|--------------------------|
| タスク完走率 | 87% | 92% |
| 修正コスト/PR | 平均 18 行編集 | 平均 11 行編集 |
| リカバリ自力復旧率 | 71% (planning 再展開強い)| 54% |
| 月額の運用コスト | $40 (サブスク) | $58 (API 従量) |
| 並列タスク数の上限 | 実用 4 並列 | 実用 6 並列 |
| 長時間タスクの安定性 | 強い (30分+で止まりにくい)| 弱い (15分+で要再開) |
タスク完走率は Codex CLI が 5 ポイント高いものの、Antigravity の planning 段階での自己修正能力 が長時間タスクで効いてきます。15 分を超える複雑な改修では、Antigravity の方が止まりにくく、止まっても planning モードから自己修復する確率が高い印象でした。
並列度の違いがプロジェクト設計に効く
最も大きな差は 並列タスクの実用上限 にありました。Antigravity は manager view で複数エージェントを同時に走らせられますが、私の経験で 4 並列を超えると「マージコンフリクトを自力で解けない」事例が急増します。一方、Codex CLI はバックグラウンドジョブとして 6 並列まで安定して回せました。
これは「同時に何タスク投げられるか」だけでなく、プロジェクトの設計判断にも効きます。
// 私が運用している pipeline-orchestrator.ts の一部
// エージェント種別ごとに並列度の上限を分けて運用している
const AGENT_CONCURRENCY = {
antigravity: {
max: 4,
suitableFor: ["frontend-refactor", "schema-migration", "long-running"],
},
codex_cli: {
max: 6,
suitableFor: ["batch-edit", "test-generation", "lint-fix"],
},
} as const;
function assignAgent(task: PipelineTask): AgentType {
if (task.estimatedDurationMin > 20) return "antigravity";
if (task.parallelizable && task.batchSize > 4) return "codex_cli";
if (task.requiresPlanning) return "antigravity";
return "codex_cli";
}
私のパイプラインでは、フロントエンドのリファクタリングや大きめのスキーマ移行を Antigravity に、定型編集(依存パッケージの一斉更新、lint fix の機械適用、テスト雛形の追加)を Codex CLI に振り分けています。
トラブル時の挙動
両者を同じ「壊れた状態のリポジトリ」に投入して観察したのが、トラブル時のリカバリ挙動でした。私が意図的に作った壊れ方は次の4種類。
- ① 重要ファイルが空(前回の編集失敗で 0 バイトになっている想定)
- ②
package.json の依存バージョンが矛盾している
- ③ TypeScript の型エラーが 50 件以上
- ④ git の merge conflict が未解決のまま残っている
挙動の比較は次の通りです。
| 壊れ方 | Antigravity の挙動 | Codex CLI の挙動 |
|---------------------|---------------------------------------------|-----------------------------------------|
| ① 空ファイル | planning で「履歴から復元」を試みる | git log から再構築するが間違える率高め |
| ② 依存バージョン矛盾| 自動で peer dependency を提案 | 「人間が直してください」で停止 |
| ③ 型エラー 50件超 | 段階的に修正、長時間タスク向き | 並列で一気に直すが回帰を起こす |
| ④ merge conflict | conflict marker を解釈して提案 | conflict 部分をスキップする傾向 |
私の運用判断: 依存ライブラリ周りの暴れているリポジトリは Antigravity、テストとlintの大量機械適用は Codex CLI。
API コストと月額の見え方
コストの捉え方が両者で大きく違います。Antigravity は実質的にサブスク制で月 $40 (Google AI Pro 経由)、Codex CLI は OpenAI API の従量制。私の使用パターン(同じくらいの作業量)で、月額は次のような構造でした。
Antigravity (月額固定 $40):
- 6サイトを4並列までで日々運用しても定額
- 重い改修月でも額が変わらない予測しやすさが利点
Codex CLI (月額従量 $50〜$70):
- 軽い月: $42
- 重い月: $68 (大規模リファクタが入った月)
- バッチ処理を多用する月は跳ねる
私の運用では、定額の予測可能性が大事な「サイト運営」では Antigravity を、「波がある一発作業(年に数回の大きな機能追加)」では Codex CLI を、という分け方になっています。
共通の MCP サーバ設計で両方を活かす
両方を併用する場合、エージェント間で同じツールを共有できるように MCP サーバ層を共通化 するのが鍵です。私のパイプラインでは、次の MCP サーバを両方のエージェントから参照する構成にしています。
// shared-mcp/server.ts
import { Server } from "@modelcontextprotocol/sdk/server/index.js";
const server = new Server(
{ name: "dolice-pipeline-tools", version: "1.0.0" },
{ capabilities: { tools: {} } }
);
// 自動投稿パイプラインで両方のエージェントが共通して使うツール
server.setRequestHandler("tools/list", () => ({
tools: [
{
name: "validate_mdx_frontmatter",
description: "MDX のフロントマターを CLAUDE.md ルールでチェック",
inputSchema: { type: "object", properties: { mdxPath: { type: "string" } } },
},
{
name: "run_article_quality_gate",
description: "article_gate.py を実行し違反を JSON で返す",
inputSchema: { type: "object", properties: { jaPath: { type: "string" }, enPath: { type: "string" } } },
},
{
name: "count_article_pairs",
description: "JA/EN の MDX 件数差を返す(push 前確認用)",
inputSchema: { type: "object" },
},
],
}));
この共通レイヤを作ったことで、エージェントを乗り換えてもツールの使い勝手が変わらず、評価の比較が公平になりました。共通 MCP サーバ自体の運用コストは月 $5 以下(Cloudflare Worker 1基)で、長期的には必須投資だと感じています。
どちらか1つを選ぶ判断軸
最後に、どちらか1つしか選べない場合の判断軸を3点に絞って共有します。
ひとつめは コードベースの平均タスク長。1タスクの想定実行時間が 20 分を超えるならば Antigravity、5〜15 分の細かい作業が多いなら Codex CLI です。私の Site A(フロントエンド改修中心)は前者、Site D(PHP の細かい修正中心)は後者でした。
ふたつめは コストの読み方の好み。月額予算を固定したいなら Antigravity、波があるプロジェクトで「使った分だけ払う」が許容できるなら Codex CLI。私の場合は、自動運用のサイト群は予算固定 = Antigravity、年に数回の大規模改修は従量 = Codex CLI に振っています。
みっつめは チーム規模。私のような個人開発者では Antigravity の planning モードが「人間レビュアー代わり」として機能して相対的に強いですが、チーム規模が大きいと Codex CLI の並列度の方が活きてきます。逆に言うと、個人で多数のリポジトリを並行運用する場合は Antigravity が向きます。
6ヶ月の並走で見えたのは、ベンチマークの数字よりも「自分の運用パターンに合うかどうか」の方が圧倒的に効くということでした。同じ判断に直面している方の参考になれば幸いです。