VSCode 1.118 のリリースノートを最初に読んだとき、正直あまり期待していませんでした。見出しは Copilot の課金形態変更への対応で、いつものメンテナンス更新に見えたからです。ところが従量課金へ移行してから1か月余り、複数の個人開発プロジェクトで日々 AI 補完を使う立場で振り返ると、この地味な更新の3点——プロンプトキャッシュ・コンテキスト圧縮・課金対応——が、月末の請求額にそのまま効いていました。
ここで書くのは、当時の期待した内容ではなく、移行後に実際に使ってみて分かったことです。トークンの測り方、どの使い方が高くつくか、月額固定と従量課金のどちらが得かの試算まで、手元で確かめた範囲でまとめます。
GitHub Copilot の従量課金はもう始まっている
背景を整理しておきます。GitHub Copilot は2026年6月1日から、従来の月額固定プランに加えて従量課金オプションを提供しています。VSCode 1.118 は、その移行に先立って2026年4月末に対応を済ませたリリースでした。
従量課金は「使った分だけ払う」方式です。補完をあまり使わない月は安く済み、一日中補完を走らせるヘビーユースの月は割高になりえます。移行前の私は「固定額のほうが安心」と思っていましたが、実際には自分の使用量を測ってみないと、どちらが得かは判断できないと分かりました。まずは自分がどれくらい消費しているかを可視化するところから始めるのが確実です。
まず自分の消費量を測る
従量課金で最初にやるべきは、機能の把握ではなく「自分が月にどれだけ消費しているか」の把握です。GitHub の課金ダッシュボード(Settings → Billing → Copilot usage)に、日別のリクエスト数と課金対象の内訳が出ます。
コマンドラインで手元に控えておきたい場合は、GitHub CLI の課金 API を叩くと使用量を JSON で取得できます。
# GitHub CLI で Copilot の課金メトリクスを取得(組織単位)
gh api \
-H "Accept: application/vnd.github+json" \
/orgs/YOUR_ORG/settings/billing/usage \
--jq '.usageItems[] | select(.product == "copilot")'私はこれを週に一度実行して、前週比でリクエスト数が跳ねていないかだけ確認するようにしました。数字を眺める習慣がつくと、「昨日は補完を垂れ流していたな」という感覚が請求前に持てるようになります。可視化しておくと、月末に驚くことがなくなります。
プロンプトキャッシュ(KV キャッシュ)が請求に直結する
VSCode 1.118 で実コストに最も効くのが、プロンプトキャッシュの積極活用です。Anthropic モデル(Claude)を使う場合、繰り返し参照されるコンテキストを KV キャッシュに格納し、キャッシュにヒットしたトークンの課金は通常の約10分の1に下がります。
これは体感ではなく、リクエストのレスポンスに含まれるトークン内訳で確認できます。同じファイル群を参照しながら連続で質問すると、2回目以降は cache_read のトークンが大半を占めるようになります。
# API 経由でリクエストした場合、usage にキャッシュの内訳が返る
# cache_read_input_tokens が大きいほど、そのリクエストは安く済んでいる
usage = response["usage"]
cached = usage.get("cache_read_input_tokens", 0)
fresh = usage.get("input_tokens", 0)
total = cached + fresh
if total:
print(f"キャッシュヒット率: {cached / total * 100:.1f}%")
print(f"新規入力トークン: {fresh} / キャッシュ読取: {cached}")ここで分かったのは、キャッシュを効かせるには「同じ文脈を、間を空けずに、同じ順序で」渡すのが要点だということです。ファイルを開き直したり、無関係な質問を挟んだりするとキャッシュが無効化され、また満額の課金に戻ります。長い作業ほど、質問をまとめて連続で投げるほうが安く上がります。
コンテキスト圧縮で「途中でおかしくなる」が減った
カスタムエージェントが複数のツールを呼んだり、大きな参照ドキュメントを読み込んだりすると、チャットのコンテキストが急速に膨らみます。以前は、長いセッションの途中で AI の回答が急に的外れになる——コンテキスト汚染——が起きがちでした。
VSCode 1.118 は、処理済みのツール結果を圧縮してからコンテキストに保持するようになりました。私の環境では、10 個以上のファイルを横断する調査作業でも、以前ほど回答が崩れなくなった実感があります。副次的な効果として、コンテキストが小さく保たれる分、従量課金でのトークン消費も抑えられます。品質とコストが同じ方向に効く、珍しく素直な改善です。
エクステンション連携の権限モデルが明確化
Copilot の従量課金移行にあわせて、エクステンション API も更新されました。サードパーティのエクステンションが Copilot のコンテキストへアクセスする際の権限モデルが明確になり、データベース接続や API テストのツールが Copilot のエージェント機能と連携しやすくなっています。曖昧なアクセス境界を回避する小細工が減った、という地味だが効く変更です。
月額固定と従量課金、どちらが得かの試算
移行後に一番聞かれるのが「結局どっちが安いのか」です。使用量次第なので一概には言えませんが、損益分岐の考え方を単価付きで整理しておくと判断しやすくなります。以下は、プランの単価を仮に置いた試算です(実際の単価はご自身の契約プランで確認してください)。
| 使い方の傾向 | 月間リクエストの目安 | 向いている課金方式 |
|---|---|---|
| 週末だけ・スポット利用 | 数百件以下 | 従量課金(固定額を使い切れない) |
| 平日の実装で毎日利用 | 数千件 | おおむね拮抗(測って判断) |
| 一日中リアルタイム補完 | 数万件以上 | 月額固定(上限があるほうが安心) |
私自身は、稼働が月によって大きく振れる個人開発の働き方なので、繁忙期は固定・閑散期は従量、と割り切るより、まず1〜2か月は従量で実測してから決める方針にしました。数字が手元に貯まると、翌月の選択に迷いがなくなります。使用量とプランの全体像は Antigravity の使用量と料金の解説 と、モデル選択でのコスト差を実測した Gemini 2.5 Flash をデフォルトに切り替えた実測記録 もあわせて読むと、判断材料が揃うはずです。
従量課金で請求を膨らませないための実践
移行後に効いた、コストを抑える具体的な習慣を挙げます。
コストが上がりやすいパターン
- 一日中エディタを開いてリアルタイム補完を垂れ流す
- 長いコードブロック全体を、少しずつ変えながら何度も再生成させる
- ファイルを開き直しながら細切れに質問し、キャッシュを毎回無効化する
コストを抑えられるパターン
- 関連する質問を一度の会話にまとめ、キャッシュを効かせる
- 補完のトリガーを見直し、不要な自動補完を減らす
- 週次で使用量ダッシュボードを確認し、跳ねた日の原因を振り返る
「月額で払い切り」から「使った分を払う」への移行は、使い方そのものを見直すきっかけになります。必要なときだけ呼ぶ、まとめて処理する——この2つを意識するだけで、請求額は目に見えて変わりました。エージェントにどこまで作業を任せるかという線引きは Antigravity と Claude Code の比較 でも触れています。
振り返って
VSCode 1.118 は派手な新機能ではなく、AI コーディング基盤としての成熟を感じさせる更新でした。プロンプトキャッシュ・コンテキスト圧縮・従量課金対応の3点は、日常的に AI ツールを使う開発者の請求額に静かに効いてきます。
従量課金が当たり前になった今、次に手をつけるべきは自分の使用量を一度きちんと測ることです。ダッシュボードを開き、先週のリクエスト数を確認する——そこから始めれば、翌月のプラン選択で迷うことはなくなります。お読みいただきありがとうございました。