新しいAIコーディングツールを試すたびに、最後に必ず同じ問いに行き着きます。「これを開発の主軸にするか、それとも今の道具の脇に置くか」です。Antigravity と Claude Code は、まさにここで悩ましい2択になります。片方はエージェントを束ねるGUIのIDE、もう片方はターミナルに溶け込むCLI。設計思想が正反対なので、機能表を眺めるだけでは決めきれません。
私は個人開発の現場で両方を毎日のように行き来しています。結論を先に言うと、これは「勝ち負け」の比較ではなく「どちらを土台に置くか」の比較です。以下では7つの観点で違いを整理したうえで、スペック表には出てこない実運用の差と、私自身が落ち着いた使い分けの線引きをお伝えします。
なお本記事は2026年3月に公開した比較を、5月の Antigravity 2.0 リリースと6月の CLI 再編を踏まえて7月に更新したものです。この4ヶ月で前提がいくつか変わっているので、まずそこから整理します。
2.0 リリースと CLI 再編で、比較の前提が変わった
冒頭に書いた「GUI の IDE か、ターミナルの CLI か」という対立軸は、2026年半ばの時点で少し崩れています。
まず Antigravity 2.0 で、アプリケーションが VS Code 系の IDE と、チャット型のエージェント・インターフェースの2つに分離しました。動的なサブエージェントが複数タスクを並行処理する構成で、製品全体としてはデスクトップアプリ・CLI・SDK・Managed Agents API・エンタープライズ配備の5要素に広がっています。「Antigravity = IDE」という捉え方は、すでに実態より狭くなりました。
もう1つ大きいのは CLI です。6月18日に Gemini CLI と Gemini Code Assist 拡張(個人向け)の提供が終了し、Go で書き直された Antigravity CLI が後継になりました。「ターミナルに溶け込む」という Claude Code の持ち味だった土俵に、Antigravity 側も本格的に乗ってきた形です。実際に触ると起動と応答は旧 Gemini CLI より明確に軽く、シェルスクリプトからの呼び出しにも十分使える速さです。
私自身、ブログ運用の定期処理をいくつも抱えている都合で、この移行はひとごとではありませんでした。6月中旬に、自動化スクリプトの中へ旧 CLI を呼ぶ箇所が残っていないかを一通り洗い出してから移行しています。定期実行の入口に古いコマンドが残っていると、提供終了日を境に何も言わず止まるので、同じ運用をしている方は早めの棚卸しをお勧めします。
Anthropic 側にも運用に効く変更がありました。6月15日から、Agent SDK やヘッドレス実行(対話を介さない Claude Code の自動実行)がサブスクリプションの上限から切り離され、月次クレジット制になっています。手元での対話的な利用は従来どおりプラン内ですが、CI や定期バッチに Claude Code を組み込んでいる場合は、コストの見え方が変わりました。
設計思想がそもそも逆を向いている
Antigravity: エージェントを束ねる開発環境
Antigravity は複数の AI エージェントを並列管理する Manager Surface を核に据えています。エージェントが Artifact(タスクリスト、実装計画、スクリーンショット、ブラウザ操作の記録など)を生成し、人間はそれをレビューして進めるという独自のワークフローです。「AIに任せた作業の経過が、目に見える成果物として残る」点が他にない強みだと感じています。2.0 以降は IDE・チャット型インターフェース・CLI のどこからでも、この束ね方に入れるようになりました。
Claude Code: ターミナルに溶け込むCLI
Claude Code は CLI ベースで、ターミナルから直接 AI に指示を出します。VS Code でも Neovim でも、今使っているエディタの隣で動かす設計です。立ち上げが速く、既存のシェルワークフロー(git、テスト、ビルド)とそのまま地続きになる軽さが持ち味です。
この「重心の置き方の差」が、後で述べる実運用の違いの大半を説明します。
7つの観点で比較
1. AIモデル
| 項目 | Antigravity | Claude Code |
|---|---|---|
| 搭載モデル | Gemini 3.5 Flash(既定)・3.1 Pro | Claude Opus 4.8 / Sonnet 5 |
| コンテキスト | 最大200万トークン | 最大100万トークン |
| モデル選択 | 自動切り替え(手動指定も可) | 手動選択・fallback 指定 |
2.0 では既定モデルが Gemini 3.5 Flash に世代交代しました。コーディング系のベンチマークで 3.1 Pro を上回りながら大幅に速いと報告されており、「Flash = 軽量だが精度は劣る」という以前の直感はもう当てはまりません。私の体感でも、既定のまま使って精度に不満を覚える場面はほとんどなくなりました。
コンテキスト窓は Antigravity が数字上は大きいですが、実務では「窓の広さ」より「長い文脈で精度が落ちないか」の方が効きます。大規模リポジトリ全体を一度に読ませる用途では差を体感しますが、1ファイルの修正では誤差の範囲です。
2. エージェント機能
Antigravity は複数エージェントの並列実行とオーケストレーションに優れています。Manager Surface から複数タスクを同時進行で管理でき、機能追加と既存バグ修正を別エージェントに割り振る、といった分担が自然にできます。2.0 の動的サブエージェントは、この分担を人間が明示的に切らなくても、タスクの内容に応じて自動で枝分かれさせてくれます。
Claude Code は単一エージェントが基本ですが、サブエージェント(Task tool)で並列処理も可能です。指示の見通しが良く、何が起きているかを把握しやすい点が強みです。
3. MCP(Model Context Protocol)対応
両ツールとも MCP をサポートし、外部ツール連携が可能です。エコシステムの色が違います。
- Antigravity: Google 製 MCP サーバー(Stitch、Firebase、Cloud Run 等)が充実
- Claude Code: コミュニティ製 MCP サーバーの種類が豊富
4. 価格
| プラン | Antigravity | Claude Code |
|---|---|---|
| 無料枠 | あり(パブリックプレビュー・上限あり) | なし(Pro $20/月〜) |
| 個人の定額 | Google AI Pro | Pro $20 / Max $100・$200 |
| 上位プラン | AI Ultra $100(Pro の5倍上限)〜 | Max 20x $200 |
| 自動実行 | プラン上限内で消化 | 月次クレジット制(2026-06-15〜) |
この構造は2026年前半で様変わりしました。以前は「定額の Antigravity か、従量の Claude Code か」という整理ができたのですが、現在はどちらも定額プランが基本で、差が出るのは自動実行の扱いです。Antigravity は CLI やバックグラウンドのエージェント実行もプランの上限内で消化されるのに対し、Claude Code はヘッドレス実行が月次クレジット制に切り出されました。手で使う分には両者の差は小さく、自動化を厚くするほど課金の形の違いが効いてくる、というのが現在の実感です。なお金額や区分は変わりやすいので、導入判断の直前に必ず公式の料金ページで最新を確認してください。
5. IDE統合
Antigravity は独立した IDE として動作し、VS Code 風のエディタビューと Manager Surface を内蔵しています。2.0 以降はチャット型インターフェースと Antigravity CLI が加わったため、「専用アプリを開かないと使えない」制約はかなり薄れました。Claude Code はターミナルで動くため、あらゆるエディタと併用できます(VS Code 拡張も提供)。すでに自分のエディタ環境を作り込んでいる人ほど、後者の「環境を変えなくていい」恩恵は大きいです。
6. 対応言語・フレームワーク
両ツールとも主要言語をサポートしますが、得意分野に差があります。
- Antigravity: Google エコシステム(Flutter、Firebase、GCP)との相性が抜群
- Claude Code: 言語を問わない汎用性、特に Rust・Go・Python に強み
7. 学習コスト
Antigravity はリッチな UI が用意され、AI 開発が初めての人でも取り組みやすい設計です。Claude Code はターミナル操作に慣れたエンジニア向けで、カスタマイズの自由度が高い反面、最初の数日は概念に慣れる時間が要ります。
数ヶ月併用して見えた、表に出ない3つの差
スペック表は静的な事実しか語りません。両方を常用して初めて分かった、数字に出ない差を3つ挙げます。
1つ目は、文脈の切り替えコストです。 Claude Code はターミナルにいるまま指示できるので、小さな修正(タイポ、import の追加、テストの微調整)を頼むときの腰の軽さが段違いです。Antigravity は IDE を前面に出す必要があり、一拍置く感覚があります。逆に、腰を据えた長い実装では Antigravity の Artifact が「どこまで進んだか」を可視化してくれて、戻ってきたときに状況を思い出すコストが下がります。なお Antigravity CLI の登場でこの差は縮まりつつありますが、CLI 側は Artifact のレビュー体験までは持ち込めないので、役割はまだ別物と捉えています。
2つ目は、並列エージェントが本当に効く場面は意外と限られることです。 Manager Surface で3つ4つ走らせれば速くなる、と最初は期待しました。実際には、タスク同士が同じファイルに触れると衝突のレビューに時間を取られ、純粋な作業時間より調整時間が増える局面があります。並列が効くのは「互いに独立した作業」(別機能・別ディレクトリ・ドキュメント生成など)に絞ったときだ、というのが使い込んでの実感です。
3つ目は、レビューのしやすさです。 Claude Code は差分がターミナルとエディタにそのまま出るので、git の文化に馴染んだ人には読みやすい。Antigravity は計画とスクリーンショットでレビューする発想なので、UI を伴う変更では強いが、純粋なロジック変更では好みが分かれます。
私の使い分けルール
両方を1台に同居させた結果、私はおおよそ次の線引きに落ち着きました。
- 既存コードへの小さな修正・テスト・git まわり → Claude Code(腰が軽く、環境を変えない)
- 新機能をゼロから設計し、複数の独立タスクに分けて任せたいとき → Antigravity(Artifact と並列管理が効く)
- UI を伴う実装やプロトタイプ → Antigravity(スクリーンショット起点のレビューが向く)
- Rust・Go など Google 圏外の言語が中心の作業 → Claude Code
- シェルからの定期実行・自動バッチ → 課金の形で選ぶ(プラン上限内で回したいなら Antigravity CLI、クレジットで予算を切り分けたいなら Claude Code のヘッドレス実行)
この二段構えにしてから、「どちらが上か」で迷う時間がなくなりました。道具を1つに絞ろうとするより、役割を分けてしまう方が、結局いちばん速いと考えています。
乗り換えなくていい場面
最後に、あえて逆の助言を。すでに片方で生産性が出ているなら、無理に乗り換える必要はありません。ツールの差が生む生産性の伸びより、慣れた環境を離れる一時的な落ち込みの方が大きい時期があります。新しい方を試すなら、本番の締め切りが迫っていない週に、小さなサイドプロジェクトで1日だけ触ってみる——その温度感で十分です。そこで「これは自分の作業の主軸を置き換える価値がある」と腹落ちしたときに、初めて本格導入を考えれば遅くありません。
まず試すなら、自分が今いちばん時間を取られている作業を1つ思い浮かべてください。それが「小さな修正の往復」なら Claude Code を、「大きな設計を分担したい」なら Antigravity を、その1タスクだけ任せてみる。最適な答えは比較表ではなく、自分の手元の作業が教えてくれます。