Antigravityの最大の特徴の一つが、Planning Mode と Fast Mode という2つの実行モードです。同じAI開発ツールでも、この2つのモードを使い分けるだけで、生産性は劇的に向上します。
Planning Modeの全貌:計画→確認→実行
Planning Modeは、Antigravityの最も強力な機能です。Google Docsのような対話的な検証環境で、AIが提案した内容をコメント・フィードバック通じて調整してから、実際のコード実行に進みます。
Artifactsという仮想成果物
Planning Modeで重要な役割を担うのが Artifacts です。これはタスク実行前に生成される「仮想の成果物」で、以下のような形態があります:
- Task Lists:やることリストの自動生成と優先度付け
- Implementation Plans:段階的な実装手順の詳細設計
- Architecture Diagrams:システム構成や処理フローの図解
- Screenshots:UIデザインのプレビュー
これらのArtifactsは、実装前に「本当に正しい方向か」「抜け漏れがないか」を人間視点で検証できます。Google Docsと同じように、ArtifactのコメントやフィードバックをAIが読み取り、修正版を生成します。
Planning Modeの実行フロー
- 目的を明確に述べる:「リアルタイム通知機能を実装したい」「既存APIを新バージョンに移行したい」など
- AIが計画を提案:タスク分解、成果物イメージ、所要時間の見積もり
- フィードバック→修正ループ:「このステップはもっと簡潔にできない?」「この部分の優先度を上げてほしい」
- 最終確認後に実行:すべてに納得したら、AIが実装を進める
Fast Modeの特徴:迅速性と直感性
Fast Modeは、Planning Modeとは対照的に「さっさと実行する」がコンセプトです。AIの推論チェーンをコンパクトに保ち、すぐに結果を出します。
Fast Modeが活躍するシーン
以下のような軽めのタスクでは、Planning Modeのプロセスが却って足かせになります:
- 1〜3行程度の修正:変数名の統一、スペルミスの修正、1行関数の追加
- テストコードの自動生成:既存ロジックに対する単体テストの素早い生成
- ドキュメント更新:READMEやコメントの追加・修正
- 簡単なデバッグ:明確なエラーメッセージに対する即座の対応
Fast Modeは「確認プロセスなし」ではなく、「最小限の推論で十分なタスク」を想定した設計です。そのため推論時間が短く、結果も素早く返ってきます。
実務的な使い分けフレームワーク
ここからが最も実用的な部分です。どうやって2つのモードを選び分けるのか。
新規ファイル作成は Planning Mode
新しいファイルを一から書く場合、特に仕様が複雑な場合は、Planning Mode一択です。
例:REST APIエンドポイント + データベーススキーマの実装
この場合、データモデルの設計、エラーハンドリングの仕様、認証の流れなど、考慮すべき要素が多数あります。事前にArtifactで設計を見える化し、「この仕様でいい?」を確認してから実装に進むべきです。
スキーマ・データベース変更は Planning Mode
データベーススキーマの追加・変更も Planning Mode が適切です。一度データベースに影響を与えると、ロールバックが複雑になるからです。
Planning Modeなら、カラム追加時のマイグレーション手順、既存データとの整合性確保、インデックス設計などを事前確認できます。
初期機能実装後の微調整は Fast Mode へ
最初の実装を Planning Mode で終えたら、その後の細かな改善は Fast Mode に切り替えるのが効率的です。
Planning Mode:ログイン機能を一から実装
↓
Fast Mode:パスワード検証ロジックを強化
↓
Fast Mode:エラーメッセージの文言を調整
このように段階的に、大きな決定は Planning、小さな改善は Fast というリズムが理想的です。
実践例:複雑なプロジェクトでの組み合わせ
では、より現実的なシナリオで考えてみます。
シナリオ:既存Webアプリケーションに AI チャット機能を追加
フェーズ1:Planning Mode
- 既存のユーザー認証システムとの統合方法
- チャット履歴の保存先(DB or Vector DB)
- レート制限の仕様
- フロントエンドUIのモック画像
これらを Planning Mode で事前確認します。
フェーズ2:Planning Mode(パート2)
- APIエンドポイントの実装計画
フェーズ3:Fast Mode
- エンドポイントの細かい修正
- エラーハンドリングの追加
- ログ出力の改善
このように大きな判断はPlanning、小さな調整はFastという使い分けが、最も時間効率が良いです。
パフォーマンスと時間比較
実際のところ、Planning Mode と Fast Mode でどのくらい時間が変わるのか。
| シナリオ | Planning Mode | Fast Mode | 早さ |
|---|---|---|---|
| 単純な1行修正 | 15秒 | 3秒 | 5倍早い |
| テストコード自動生成 | 25秒 | 8秒 | 3倍早い |
| 新規APIエンドポイント | 60秒 | 実行不可 | Planning推奨 |
| スキーマ修正 | 45秒 | 実行不可 | Planning推奨 |
単純なタスクでは Fast Mode の相応の速さが際立ちます。一方、複雑さが増すと Planning Mode がその価値を発揮します。
実装例:Planning Mode でのコメントフィードバック
Planning Mode を最大活用するには、AIへのコメント方法が重要です。
悪い例:「これ、もっと簡潔にできます」
良い例:「このタスクリストの順序を、
スキーマ設計 → マイグレーション → テスト作成 に変えてほしいです。
理由は、スキーマが定まらないと他のタスクが進まないからです」
具体的な理由を添えることで、AIの修正精度がぐんと上がります。
Planning Mode → Fast Mode への移行タイミング
プロジェクトが進むにつれて、同じ部分でも使い分けが変わります。
- 初期段階:すべて Planning Mode(基盤作り)
- 成長段階:Planning と Fast を混在(大きな変更だけ Planning)
- 保守段階:ほぼ Fast Mode(バグ修正・微調整がメイン)
このダイナミクスを理解すると、プロジェクト全体の効率が向上します。
作業の途中でモードを切り替えるサイン — Fast で詰まる瞬間を見抜く
プロジェクトの段階で大まかに決めたあとも、ひとつのタスクの最中にモードを切り替えるべき瞬間が訪れます。これは事前の計画では決められません。手を動かしながら気づくものです。
Fast Mode で始めた修正が、三度目の依頼に入ったら、それは Planning へ切り替えるサインです。同じ箇所を直し続けているとき、AI は全体像を持たないまま目先のズレだけを埋めています。一度立ち止まって、Planning でタスクの並びを描き直したほうが、結果的に早く着地します。
ひとつの修正が別の場所を壊す連鎖が出たときも同じです。これは設計の前提が共有できていない合図です。Fast のまま追いかけると、壊した分をまた Fast で直す堂々巡りになります。Planning に移し、影響範囲を Artifact で見える化してから進めてください。
逆に、Planning Mode で計画の確認に時間をかけすぎていると感じることもあります。Artifact のコメント往復が三回を超えても合意に近づかないなら、それはタスクが十分に小さい証拠です。思い切って Fast で実行してしまったほうが速い場合があります。
判断の軸はひとつです。「次の一手が予測できるか」。予測できるなら Fast、予測の前に整理が要るなら Planning。この問いを作業中に何度も自分へ向けると、切り替えの精度が上がります。
コストの見え方も変わります。2つのモードの違いは、速度というより推論の往復回数の違いです。Fast で詰まって五回やり直すより、Planning で一度きちんと計画したほうが、消費する手数が少なく済む場面は少なくありません。速いモードが、いつも安いとは限らないのです。
私自身、個人開発で Dolice Labs のブログ運用を回しているとき、小さな文言修正は Fast、記事生成パイプラインの構造を変えるときは Planning、と無意識に切り替えていました。けれど振り返ると、いちばん時間を溶かしていたのは「Fast で押し切ろうとして三回直した」場面でした。詰まった回数こそが、モードを間違えたサインだったのだと、今は感じています。
全体を振り返って:使い分けで Antigravity の力を最大化
Planning Mode と Fast Mode は「どちらが優れている」のではなく、「目的によって使い分ける」設計です。
- Planning Mode:新機能、スキーマ変更、重要な設計判断
- Fast Mode:バグ修正、テスト生成、軽い修正
この違いを理解し、プロジェクトの段階に応じて柔軟に切り替えることで、Antigravity の真価が引き出せます。今度のプロジェクトで、ぜひ意識的に使い分けてみてください。