アプリのストアに届いたレビューへの返信を、エージェントに任せようとする場面を思い浮かべてみてください。「返すべきものと、そっとしておくものを分けてほしい」と頼んでも、返ってくる下書きは、自分の感覚とずれた並びになりがちです。
たとえば、星1つの短いレビューに丁寧な長文が付き、機能の要望には定型の礼だけが付く、といった具合です。エージェントが悪いのではありません。頭の中でやっている仕分けを、一文も書き出していないからです。
この記事でお伝えしたいのは、判断基準は「感覚の言い換え」ではなく「過去の事例の並べ替え」から文章にするということです。コードを書かない方でも、手元の過去の仕事が5件あれば試せます。
なぜ「いつもの感覚」は渡らないのか
人が慣れた仕事でしている判断の多くは、本人にも言葉になっていません。レビュー返信なら、返すかどうかを決める前に、文面の温度や日付、同じ人の過去の書き込みまで、無意識に見ています。
エージェントに「適切に判断してください」と頼むのは、その無意識の部分を丸ごと推測に任せることです。推測は、たいてい世間一般の平均に寄ります。私の仕事の平均ではありません。
ここで一つ、線引きをしておきます。
エージェントに渡すのは「性格」ではなく「境目の例」です。
「丁寧に」「慎重に」といった性格の指定は、何も決めていないのと同じです。「この場合は返す、この場合は返さない」という境目の例が、いちばん効きます。
手順1: 直近の事例を5件、結論つきで並べる
まず、自分が実際に判断した過去の事例を5件集めます。新しい想像上の例ではなく、すでに結論を出したものです。
私は壁紙アプリのレビューを例にして、5件を選び、それぞれに「返した/返さなかった」と、そのときの理由をひと言ずつ書きました。理由は、書いている途中で変わってもかまいません。むしろ、変わった箇所が宝物です。
| 事例 | 私の結論 | 書き出して分かった理由 |
|---|---|---|
| 不具合を具体的に書いたレビュー | 返す | 再現手順が読み取れる。直したら知らせたい |
| 機能の要望だけのレビュー | 返さない | 返信しても誰にも届かない。要望は別に記録する |
| 感情的だが内容のない短文 | 返さない | 返すと火に油になることがある |
| 誤解にもとづく低評価 | 返す | 誤解を解く一文だけで十分 |
| お礼のレビュー | 返さない(まれに返す) | 返すのは、使い方が具体的に書かれているときだけ |
表を作っている最中に、「感情的だが内容のない短文は返さない」という基準を、自分でも初めて言葉にしました。5件目の「まれに返す」は、書くまで意識していなかった例外です。
手順2: 理由を「もし〜なら」の一文に直す
次に、表の理由の列を、エージェントが条件として読める形に直します。
型はシンプルです。「もし(状況)なら(行動)。ただし(例外)のときは(別の行動)」。長くしないことが肝心です。
私が書いたのは、おおよそ次のような文でした。
返信するか迷ったら、次の順に確認してください。
1. 再現できそうな不具合が書かれている → 返信の下書きを作る
2. 機能の要望だけ → 返信せず、要望一覧に1行足す
3. 内容のない感情的な短文 → 返信せず、私に報告だけする
4. お礼 → 原則返信しない。使い方が具体的に書かれていれば下書きを作る
迷った場合は下書きを作らず、理由を一行添えて私に確認してください。最後の一行が、実は大切です。迷ったときの行動を決めておくと、エージェントは無理に答えを作らなくなります。
手順3: 渡す前に、過去の事例で「当て直す」
ここが、この記事でいちばん伝えたい手順です。
書いた文章を、そのままルールとして登録する前に、手順1で使っていない過去の事例を3件選びます。その3件を、エージェントに「新規の依頼」として判断させてみます。
見るのは、結論が私の過去の結論と一致しているかどうかだけです。文章のうまさは見ません。
最初の当て直しでは、3件のうち1件くらいはずれるものです。たとえば、お礼のレビューすべてに下書きが付いてくる場合。原因は、文章中の「使い方が具体的に書かれていれば」の「具体的」が広すぎることにあります。
直し方は簡単です。「具体的に」を「機能名か操作が1つ以上出てくる場合」に変えて、もう一度3件を試します。今度は一致するはずです。
ずれた箇所だけを直すのが、いちばん早い近道です。全体を書き直し始めると、直した箇所と直していない箇所の区別がつかなくなります。
手順4: 例外の置き場所を決める
ルールが育ってくると、例外が増えます。増えた例外を、ルール本文に全部足していくと、読みにくくなり、エージェントも優先順位を取り違えます。
私は、本文は4項目までに保つことを勧めます、例外は「例外メモ」として別の短い段落に分けています。例外メモには、日付と一行だけ。たとえば「お礼でも、前回返信した相手には返す」のように。
数が増えてきたら、本文に昇格させるか、思い切って消すかを決めます。その見直しは、月に一度で十分だと感じています。
つまずきやすい点
最初のうちは、次の3つでつまずく方が多いはずです。私も通りました。
- 理由を書くとき、結論に合わせて理由を作ってしまう。迷った事例をあえて混ぜると防げます
- 当て直しの事例が、書いたときの事例と似すぎている。種類の違うものを選びます
- 一度うまくいくと、見直しをやめてしまう。ずれは、季節や状況が変わったあとに出てきます
次にやること
今日、手元の過去の仕事から5件だけ選んで、結論と理由を表にしてみてください。ルールの文章に直すのは、その次で十分です。
エージェントに任せられる範囲は、自分の判断を自分が言葉にできる範囲と、ほぼ同じ広さなのだと、いまは思っております。