はじめまして。廣川政樹(ひろかわ まさき)と申します。Antigravity Lab を運営しています。
ここでは、プログラマーとしての歩みや、30年近いコーディングの中で感じてきたこと、そしてなぜ「Antigravity」というテーマで AI コーディングツールの可能性を探っているのか、少しお話しさせてください。
1997年:16歳でHTMLと出会う
1981年生まれの私にとって、1997年は人生を変える年となりました。当時、日本はようやくインターネットが民間にも普及し始めた黎明期です。学生だった私は、親戚の家で初めて「ウェブ」というものに触れる機会を得ました。
その時代に一般的だったのは、個人ホームページブームです。「自分の思いを、HTML というテキストベースの言語で記述すれば、世界中の誰もが見ることができる」——この衝撃は、今のデジタルネイティブ世代には想像しづらいかもしれません。
当時、デジタルリテラシーは圧倒的に稀少でした。プログラミングは、大学の情報学科など、限定的な教育機関でのみ教えられていました。しかし、私は独学で HTML、CSS、そして簡単な JavaScript を学び始めました。
参考資料は、限定的でした。秋葉原の本屋で買った数冊の技術書、そして試行錯誤です。サーバーにテキストファイルをアップロードして、ブラウザで表示がどう変わるか——その繰り返しの中で、私のプログラマーとしての基礎が形成されました。
DTP オペレーター時代:デジタル制作の現場へ
2000年、19歳の私は、会社員生活を開始します。DTP(デスクトップパブリッシング)オペレーターとしての職です。
当時、印刷・デザイン業界は、デジタル化の真っただ中にありました。紙媒体の制作フローが、次々とコンピューター上で行われるようになっていた時代です。Adobe Illustrator、Photoshop、QuarkXPress といったツールを日々操ることで、ビジュアルデザインとデジタル技術の接点を身につけることができました。
DTP の仕事は、単なる「絵の配置」ではありません。色彩理論、タイポグラフィ、レイアウト原則、そして制作効率——これらの複合的なスキルが要求されます。同時に、当時のデジタルツールは今ほど洗練されていなかったため、限定的なリソースで最大の効果を生み出す工夫が常に必要でした。
この経験は、後のプログラミング人生で、「エレガントなコード」「無駄を排除した設計」といった美学につながります。
システム開発の世界へ:複雑さとの格闘
2002年、21歳の時に、私はキャリアの大きなターニングポイントを迎えます。DTP の領域から、大手企業のシステム開発部門へと転職したのです。
当時、日本の大企業は、Y2K 問題の対応が一段落し、その後の大規模システム刷新投資の時代に入っていました。エンタープライズシステム開発は、前述の DTP 業務とは全く異なる複雑性を持っていました。
分散システム、データベース設計、要件定義から運用まで——スコープが数桁違うのです。同時に、プロジェクトマネジメント、ステークホルダーマネジメント、品質保証といった、テクニカルスキル以外の領域の重要性も痛感しました。
この時代のシステム開発経験は、私に以下のものをもたらしました。
- 大規模プロジェクトの意思決定プロセスの理解
- 複数の技術スタックを統合する方法論
- チームワークと個人のプロダクティビティのバランスの感覚
- そして、**「きちんと設計されたシステムの美しさ」**への理解
ただし、同時に私は一つの違和感も感じていました。大企業のシステム開発では、個人の創造性よりも、プロセス遵守や既存のベストプラクティスの踏襲が優先される傾向がありました。それは安定性や信頼性という意味では正しいのですが、「新しい何かを創造する喜び」という感覚が薄れていくように感じたのです。
独立への決断:2005年のブレークスルー
2005年、私は決断を下します。会社員を辞めて、フリーランスとしてのキャリアを歩むことにしたのです。
当時、それは非常にリスキーな選択でした。現在のようにフリーランスプラットフォームも充実していませんでしたし、クレジットカード、ローンといった社会的信用も、会社員であることに大きく依存していました。
しかし、その決断が私に与えたものは、計り知れないほど大きなものでした。
独立後、私は、ウェブサイト制作、プログラミング、グラフィックデザイン、インタラクティブムービー制作といった、多角的なスキルセットを磨くことができました。クライアントのニーズに応じて、最適なテクノロジーを選択し、実装する——その自由度が、私の創造性を大きく引き上げてくれたのです。
ゲーム開発とテクニカルアート:ビジュアルと計算の融合
2011年、私は新しい領域に踏み込みます。ゲーム開発におけるテクニカルアーティストとしての仕事です。
テクニカルアーティストは、ゲームデザイナーのビジュアル的ビジョンを実現するために、技術的側面からサポートする職種です。シェーダー開発、パーティクルエフェクト、アニメーション最適化、VFX(ビジュアルエフェクト)の技術的実装——これらは、純粋なプログラミング能力と、美術的感性の両者を要求します。
ここで重要だったのは、「美しさ」と「効率」のせめぎ合いの中で、最適解を見つけることでした。高フィデリティなビジュアルを求めるゲームデザイナー、限定的な GPU パフォーマンスの制約条件、それらの中での妥協点の模索——それは、まさに「アートとサイエンスの交差点」でした。
このゲーム開発経験が、後の私のアート活動と、テクノロジー活用に大きな影響を与えることになります。
個人アプリビジネス:技術がビジネスになる瞬間
2013年、私はスマートフォンアプリ事業を立ち上げました。
当時のスマートフォン市場は、今ほど飽和していませんでした。良いアイデア、実装能力、そしてマーケティング戦略があれば、個人開発者でも世界的なスケールにリーチすることが可能だったのです。
最初のメガヒット、Beautiful HD Wallpapers は、シンプルな壁紙配信アプリでした。しかし、そのシンプルさの背後には、数千時間の開発、テスト、最適化が隠れていました。同時に、累計 5,000 万ダウンロール、月間 300 万アクティブユーザーという規模を運用するために必要な、バックエンド基盤、データ分析、グローバル対応といった複雑なシステムも構築する必要がありました。
このアプリビジネスの時代を通じて、私が学んだ最大の教訓は以下のものです。
「技術的な優秀さだけでは、ビジネス成功につながらない。しかし、ビジネス成功に必要な全てのプロセスの中核には、やはり技術がある」
ユーザーインターフェース、パフォーマンス、セキュリティ、スケーラビリティ、そして継続的改善——これらは全て、技術的基礎があってこそ実現されるのです。
コーディングツールの進化を見守ってきた開発者
ここで、私が Antigravity Lab を立ち上げた理由に直結する、重要なテーマに移りましょう。
1997年から現在(2026年)までの約30年間、私は、プログラミングのツール環境がどのように進化してきたかを、一人の開発者として実地で経験してきたのです。
1997-2000年代初期:vi, Emacs, Notepad まさに「テキストエディタ」の時代です。構文のハイライトすら、ないか限定的でした。プログラマーは、自分の頭の中で、メンタルモデルを維持しながら、コードを書いていました。
2000年代中盤:IDE の台頭(Visual Studio, Eclipse) 開発環境の統合化が進みました。コンパイル、デバッグ、バージョン管理——複数のツールを一度に扱えるようになりました。生産性が劇的に向上した時代です。
2010年代:VS Code, Sublime Text, モダン IDE の時代 より軽量で、カスタマイズ可能なエディタが登場しました。同時に、GitHub による分散バージョン管理、NPM などのパッケージ管理が標準化されていきました。
2020年代初期:GitHub Copilot などの AI コーディングアシスタント そして今、私たちは新しい転換点に立っています。AI が、「提案」の段階を超えて、実際の開発の意思決定に関与し始めた時代です。
なぜ「Antigravity」なのか
「Antigravity(反重力)」というテーマを選んだ理由は、深く考えるに値するものです。
プログラミングの本質は、**「問題に対する解答を、ステップバイステップで構築すること」**です。従来のコーディングプロセスでは、開発者は、自分の思考の「重力」——すなわち、論理的制約、技術的制限、既知の知識の範囲内——の中で、少しずつ上へ上へと進んでいきました。
しかし AI コーディングツール(特に Gemini、Claude といった高度な推論能力を持つモデル)の登場により、その「重力」が一部、相対化されるようになったのです。
開発者は、より高い抽象度での思考から始めて、AI がその詳細実装を提案し、開発者がそれを検証・改善する——という、従来とは異なる開発フロー が可能になり始めました。
それは、開発者の思考に、ある種の「反重力」をもたらす。つまり、**「今までは地表を這うように進まざるを得なかった開発プロセスが、より高い高度から全体像を見ながら進められるようになる」**ということです。
ただし、その「反重力」は、決して問題解決の責任から開発者を解放するものではありません。むしろ、より高い次元での判断が求められるようになったとも言えます。
宮大工の祖父たちから受け継いだもの
ここで、個人的な背景についても触れておきたいと思います。
私の両祖父は、いずれも**宮大工(神社や寺院を建築する伝統工匠)**でした。
宮大工の仕事には、多くの教訓が隠れています。彼らは、**正確さ、美学、長期的耐久性、そしてクラフトマンシップ(ものづくりへの誇り)**を、自分たちの仕事に込めていました。
プログラミングは、表面的には全く異なる領域に見えるかもしれません。しかし、本質的には同じです。良いコードは、美しく、理解しやすく、長期的に保守可能であり、そして作り手の誇りが込められているべきです。
宮大工の祖父たちが、樹齢300年の木を選別し、几帳面に寸法を測り、ノミで仕上げたように、プログラマーは、適切なアルゴリズムを選択し、コードを丁寧に書き、テストと最適化を積み重ねるべきなのです。
その精神は、AI の時代でも変わるべきではないと、私は考えています。むしろ、AI という新しい「道具」を手にした今だからこそ、**「ものづくりの根本的な価値」**を問い直す必要があるのではないか——それが Antigravity Lab の根底にある思想です。
コンテンポラリーアーティストとしてのもうひとつの顔
プログラミングの話が続きましたが、私にはもうひとつ大切にしている活動があります。コンテンポラリーアーティストとしての制作です。
2019年に本格的にグラフィックアートの制作を再開して以来、ヨーロッパ、アジア、アメリカ大陸の展覧会に作品を出展してきました。LA Art Show(ロサンゼルス)、Rome International Art Fair(ローマ)、Paris International Contemporary Art Fair、Ansan International Photo Festival(韓国・安山)、BRAIN CAKE(カサ・ミラ、バルセロナ)など、さまざまなアートフェアやギャラリーで作品を発表する機会をいただいています。
受賞歴は17冠になりました。A' Design Award「世界14位ベストデザイナー」、ルクセンブルク国際アート賞「Meritorious Service to the Arts Award」、ギリシャ・ハニア「Award of Achievement」、Fondazione Effetto Arte のミケランジェロ国際アート賞や「The New Great Masters in New York」などの評価をいただいています。
作品は、日本の祈りの文化に根ざした象徴的な世界観をベースに、人間の意識と美、夢と現実の境界を描いています。365 Art+ Magazine、Le Musee Plus Magazine(表紙特集)、The Best Contemporary Masters、ANTHOLOGY — The Last Decade 2015–2025 などの国際美術出版物にも作品が掲載されています。
コードを書くことと、絵を描くこと。一見まったく異なる行為に思えますが、どちらも「ゼロから何かを形にする」という点では同じです。宮大工の祖父たちから受け継いだものづくりの精神が、コードにもアートにも、静かに流れ続けているように感じています。
Antigravity Lab の使命
Antigravity Lab は、以下の3つの目標を掲げています。
1. AI 時代のコーディング思想 GitHub Copilot、Claude、Gemini といった AI コーディングツールが、実際の開発プロセスにどのような影響をもたらすのかについて、実践的かつ哲学的に探求します。
2. コードの美学と効率性 「良いコード」とは何か。その定義は時代とともに変わります。AI の時代における「良いコード」の新しい基準について、考え続けます。
3. 開発者のメンタルモデル AI アシスタントとの協働作業の中で、開発者の思考プロセスはどのように変わるのか。その変化を追跡し、後続の開発者たちが、より意識的にこの転換期を乗り越えられるようにお手伝いします。
30年のコーディング経験から
16歳で HTML を学び、30年近い時間が経ちました。その間、プログラミングの世界は、想像以上に急速に変わってきました。
しかし同時に、変わらない本質もあります。**「人間の問題を解く」**という行為の根本的な価値は、不変です。
そして、その価値は、AI の時代にはより一層大切になると考えています。なぜなら、AI は「解く手段」を変えるかもしれませんが、「何を解くべきか」「なぜそれを解くのか」という問いに答えるのは、やはり人間だからです。
Antigravity Lab を通じて、私は、新しいツール(AI)と、古い精神(クラフトマンシップ)を融合させた、次世代の開発方法論を模索したいと考えています。
もし、こうした視点から発信されるコンテンツに関心がおありでしたら、以下のリンクからご連絡ください。
アプリ
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プログラミングは、私にとって単なる「職業スキル」ではなく、世界との対話の方法です。AI の時代は、その対話がより豊かで複雑になる時代だと感じています。
廣川政樹(ひろかわ まさき) Contemporary Artist & Digital Creator
国際アート賞17冠のコンテンポラリーアーティスト。1997年から30年近いプログラミング経験を持ち、累計5,000万DLのアプリ事業を運営。宮大工の祖父たちから受け継いだクラフトマンシップの精神と、最先端のAIテクノロジーの融合を追求している。